長野哲 自叙伝 できあがりました。

B6単行本サイズ(B5の半分です)
100ページです。

 まさか、自分で書くとは思わなかったと言いながら、85歳でチラシの裏紙に何枚を書かれた原稿に滲む、野太い人生の数々。お店に今もご夫婦で毎日ネクタイをしめて出勤されています。お昼は、奥様のつくった曲げわっぱの弁当というのに、ほっこりします。88歳の米寿のパーティに向けて一足先に自叙伝は完成。

 

一、まえがき

 目をゆっくり閉じると、昭和の景色が色鮮やかに瞼に流れてくる。残像とはいえ、脈打ち、みずみずしい。つい数週間前の出来事のようだ。
 私はそうとうの楽天家であった。「貧乏」という文字が大嫌いだった。青春の素地を爆発させ、いつもオンボロのエンジンに青春の炎をたいて何にでも挑戦した。数え切れない失敗と、それと等質の自己嫌悪。煮え湯も飲んだ。青春は荒野の裸の闘いだった。
 自分は自分を不死身だと常々思っていたものの、取引先の倒産と、自社の火災事件の時は、もうダメだと腹を括(くく)ったものだ。崖の縁に爪立ちするまでに、追いつめられた。
 それでも、つぶれることがなかったのは、運がよかったとしか言いようがない。
 いつも貧乏だった。暗闇の中で孤独だった。それでも家族がいたからここまで頑張れた。浮上のキッカケは、トイレで出会った一人の男だった。勿論、そのことがチャンスの糸口になるなんて思っていない。
 人の運命は、日常の些細な風景のなかに滲(にじ)んでいる。運命というのは振り返った時に、あとからわかるもので、出会った時は自分の気配を消している。偶然つかむ人もいれば、必然が重なって、それを運命と悠然と受け容れる人もいる。
 さて、この本を書こうと思ったのは、みすずの社員の皆さんや、私の家族がこの本を読んで、元気になってほしいとの願いからである。製紙加工工場から、ギフトショップみすずを創業した私の青春の闘いを、百年先の子供達のいる未来にも叩きつけてみたかった。
 自分の存在した証を残すことに、恥ずかしがることは何もない。私はそう思う。
 恥ずかしいというのは、廻りの目ばかり気にしている奴の泣き言だ。あれこれ考える前に行動を起こし、電話一本をかける。私はそんな自分が好きだった。自分を好きになれない人に、他人を好きになれるわけがないのだから。
 百年先の子供達へ、たった一人、今目の前にいる人を大切にしてほしい。落語の師匠と弟子のように、すべての基本は一対一の勝負なのだ。目の前にいる一人の人を感動させられなくて、大衆を感動させることはできない。
 恥ずかしがることはない、まずは最初の一歩を踏み出す小さな勇気を忘れないでほしい。
 それでは、長野哲の履歴書、お楽しみください。

二、お翁の葬列

 旗を掲げているひと、花輪をもつているひと、荘厳な葬列は上分町本町から流して葬儀会場まで約一キロ半。お翁(磯吉お爺ちゃんは町役場の助役だった)の野辺の送りは、人波ができ、葬儀には四ヶ寺から僧侶が訪れ、参列者は日中途絶えることがなかった。父はその様子を私に何度も話してくれたものだ。
 その葬列に四歳の私も参加していた。香炉の香りが立ちこめていた。列の最後には大人達がお棺を担いでいた。長い長い一日だった。
 今もその光景を思い出そうとすると、五秒で昭和十一年の平和な昭和の景色があらわれ、十秒で葬列の独特な空気が蘇り、三十秒でなぜかお翁がそばに立っているように思うのが不思議だ。
 この野辺の送りの葬儀は、幼心の私にも百年プリントのように刻まれている。ことあるごとにこの光景を思い出す。三十秒で現われたお翁は「負けたらあかんで、哲」と背中を なでながら、最後に「行け、自分らしく」と背を押してくれたものだ。
 今の社会では、子供達が死に立ちあい、最期の時を一緒に過ごす機会がほとんどなくなってしまった。火葬場も立派になり、斎場は近代的になり、システム化された。お昼は綺麗なお弁当が出る。こうして、死を遠くに感じている子供達が、生々しく死を実感できててないのを私は残念に思う。
・・・・

※一部をご紹介しました

 

 


 

手書きの原稿を元に、インタビュー。
チラシの裏紙に書いてあるのが、なんだがいいんですよ。
人生を振り返る時、人はままならないようなエネルギーが出てくるんだと思うんですよ。
85歳でこのエナジー。インタビュー → 私が執筆 → 修正 → 養生して推敲
それをくり返しながら、二人で紡いだ文章の数々。

投稿者プロフィール

渡部雅泰ライター
クレストデジタルズ株式会社
代表取締役
渡部雅泰(わたなべまさやす)
東京都武蔵野市吉祥寺在住

profile
中小企業家同友会
倫理法人会
海外旅行100回以上(大学卒業後旅行代理店勤務、主に海外旅行を担当)
家族で全県宿泊挑戦中(家族で23/47都道府県)
2016年お遍路逆打結願
山下達郎さんの大々ファンです、愛媛FCボランティア